俺とD&D
小学校の同級生でN君ってのがいた。 奥さんに夜逃げされた父親と2人で暮らしていて、彼の生活環境は劣悪そのもの。 父親が三流カップラーメン製造会社に勤めているので、基本食はもちろんカップ麺&インスタント麺。 おそらくガスを止められていたのであろう、いつも電熱器+鍋で調理していたようだ。 冷蔵庫をチェックすると中身は全部腐っていた・・・ TVでしか見れないと思っていた4年前の玉子なんかもあるよ。 驚くべきは風呂。なぜか生ゴミが詰まったゴミ袋で埋め尽くされてるのだ。 風呂はどうしてるんだ?と聞くと、入らないとのこと。 更に驚くべきは便所。トイレットペーパーの芯が500本ぐらい転がっていて、便器にはクソがてんこもり。 このクソはどうしてこのままなのか?と訊ねると、落ちないとのこと。ひぃ。 市営の失業者向けアパート(家賃7500円)とは言え、これは酷すぎる。 N君は休みがちで、小学校の時はほとんど休んでたな。 高校には入れたようだが、教室で包丁を振り回して退学になったって話を聞いた限りでは、現在の 生存状況さえ怪しい。 そんなN君宅で開催されているD&Dに誘われたことがあった。 D&Dとはダンジョンズ&ドラゴンズの略であり、おそらく世界最古のRPGじゃないかと思われる。 TVゲームが登場してからは、それと区別するためにテーブルトークRPGと呼ばれるようになったらしい。 TRPGにはいくつかあって、T&Tなんかもあったが、最もメジャーなのはD&Dのようだ。 遊び方は、マスターと呼ばれる人がシナリオやダンジョンを考えて、それをプレイヤー数人がサイコロを 振ったり会話をしたりして進めていくRPGだ。 N君は学校の勉強はからっきし駄目だったが、マスターとしての才覚はあったらしい。 いつも死人のような顔付きをしていた彼も、D&Dの話をするときだけは活き活きしていた。 で、誘われたので早速彼の家へ行った。エレベーターなんてものは付いてないので、5階まで行くのが 結構しんどかった記憶がある。 うーん、メンバーが濃いい。今で言うオタクってやつか。 その中に入った俺は予想通り浮いている。 素でキャラクター同士の会話を進めていくのがかなり恥ずかしいよ。 TVゲームと違って選択肢は無限大、ゲームが盛り上がるかどうかはそれに対応するマスターの腕に 掛かっているのだ。 初心者の俺の為に彼も頑張ってくれたが、やっぱり俺には無理。 それが最初で最後のTRPGだった。 戻る