俺と富塚さん
高校の頃。同じクラスの富塚さんが好きだった。 でも好きだと話し掛けられないんだ。 どうでもいい人には話し掛けることができるのにね。それは今も同じ。 富塚さんは色白で髪が綺麗だった。 休み時間は良く目で追っていた。悶々としながら。 ある日、富塚さんが我が市に引っ越してきた。 それもうちの近くっぽい。 確信は持てないが目撃情報が寄せられたのだ。 うちの市からそこの高校へ通っている人はそんなにいなかった。奇跡である。 同じクラスには人気の子が2人いて、1人は富塚さん、もう1人はなつみちゃん って名前だった。 同じ富塚派の友人I君と、帰り道こっそりついていって家を突き止めようって案 が出た。 やろうやろう! 電車から降りてバスに乗る所までは確認済み。 今日はそのバスをチャリで追い掛けるぞ。 相手はバス。死に物狂いで走らないと追い付かない。 恋のために全力を尽くす。これがめちゃくちゃ気持ち良かった。 青春だなぁ。 バスはちょこちょこ止まるので何とか追いつくことができた。 気が付くと富塚さんがいないってのを3日ぐらい繰り返しただろうか。 遂に我々は突き止めたのだ。 うちから歩いて数分ぐらいのアパートに住んでいたのだ。 こんな近くに! しかし家がわかっても、そこから先には何も進展しなかった。 それから数ヶ月。 土曜の授業が終わって帰ろうと教室を出た時だった。 後ろから富塚さんに呼び止められた。 全くの不意打ちにビックリした。本当に心臓が飛び出るかと思った。 話しかけてきたからには何か用があるのだろう。 良い話か悪い話か。どっちだ。いや、悪いはずは無いぞ。 好き好き光線が富塚さんを射止めたに違いない。 「わたしの友達がね、銀字君のこと好きだって言うの。」 え、え・・・ なんかもう凄くがっかりして、その後のことは覚えてない。 ここで一言「俺はお前のことが・・・」とか言ってれば違った結末、もしくは 違った人生になっていたかもしれないな。 大事な場面での一言が出ない人間である。これで何度損をしたことか。 残り少ない人生。ここぞって機会がもし訪れたなら、勇気を出して前に進もうと 思う。 戻る