俺と喫茶店 その1
喫茶店のモーニングが好きである。 知らない店を見つけると喜んで入店してしまう。 その日は用事で普段行かない地域に出掛けていた。 時間がまだ早いので周辺を散策したら、住宅地の真ん中に一軒の喫茶店を 発見した。 民家っぽいのだが、看板が出ているので喫茶店と判断できた。 ドアを開けて入るとお客さんは0人。 20代中盤ぐらいの男の店主がいたが、「いらっしゃいませ」などの挨拶は無い。 無愛想と言うよりもコミュ障なのかもしれない。見た目はいじめられっ子 っぽい感じである。 店内はやや殺風景。通常の店にあるようなアイテムが何ひとつ無い。 掃除が行き届いた店内にピカピカのテーブルと椅子。 壁に5枚ほど絵画が飾られていて、二面ある窓からはゴールドクレストの 木が見える。 店主が歩いてきて水を置いた。そして目が合う。 これは無言で注文は? って言ってきてるのだろうか。 だがしかし。メニューが無いのだよ。 壁にも無いし、どのテーブルにも置かれてないし。 3秒ぐらいの沈黙の後、俺は「モーニング」と呟いた。 店主が2秒後に「トースト?」と返す。 そもそもこの店にモーニングはあるのだろうか。トーストと聞いてきたからには トースト以外のモーニングもあるのかな? 俺は「トースト?」と呟いた。 なぜか疑問系なのは、トーストが何? ってのとトースト以外にも何かあるの? って疑問を含めた言い方だからだ。 すると店主は「ホットコーヒー」と囁いた。 真夏である。「アイスコーヒーで」と俺は言った。 注文は通ったみたいだね。 メニュー何で無いんだろう。 まさか超絶ボッタ店だったりして。飯食うときに値段など気にしないけども、 そのボッタクリ具合にもよるかな。 住宅地の真ん中なのに客が0人。これはマイナス材料。 綺麗に掃除された店内と、質の悪くないテーブルと椅子。 窓から見える木々も手入れが行き届いている。 ボッタ店だったらテーブルも椅子も粗末な物にするだろうし、庭木を愛でる ような精神も無いはず。 考えながら20分待っていたら、トーストとアイスコーヒーが出てきた。 トーストは普通。6枚切りの食パンにバターたっぷり。 アイスコーヒーも普通。 30分ほど読書してからお会計。 「500円です。」 料金も普通だ。 店から出る時に「ありがとうございます」の言葉はやはり無かった。 戻る