俺と富山の置き薬
うちでは江戸時代から代々富山の薬売りを利用していた。 薬売りのおじちゃんが定期的に訪問してくる。 大昔は徒歩、ちょっと昔は自転車、それからバイクになっただろうか。 薬箱の中をチェックして、足りなくなった分を補充してくれるのだ。 小さな子供だった頃は紙風船やコマなどのちょっとしたおもちゃが 貰えたので、おじちゃんが来るのをいつも楽しみにしていた。 今でも覚えているおもちゃがあって、それは金属製で指でつまむと ペコンって高い音が鳴るんだ。あれ楽しくてしばらくペコンペコンや ってたな。探せばどっかにあるかも。 高校生ぐらいからおもちゃをくれなくなったけど、薬の威力には感謝 していた。うちでは薬と言えば富山の置き薬なので、普通の市販の薬 は使ったことがなかった。 子供用のピンクの粉状の風邪薬。あれは甘くてうまかった。 うまいんだけど、風邪ひいた時にしか飲ませてくれないんだよね。あ たり前だけど。この商品は10年以上前に消滅した。 大人用の風邪薬は漢方だったかな。これも何年か前に普通の風邪薬に 近い成分になった。 熊膽圓、赤玉はら薬も効き目バッチリだった。 熊膽圓は通称「くまのい」 胃腸薬である。こんなに効く胃腸薬は無 いぞ。他の飲んだこと無いからわからないけど。 だんだん富山の薬売りも普通の会社化してきた。 そして3年前に事件が起こった。 置き薬は無くなった物を補充したり、古いのを新しい物と交換してく れるのが当たり前だが、新しく担当になった営業(今は営業って言葉 がしっくりくるね)が古い薬を置いていくようになったのだ。 営業が来るごとに配置期限の近い薬を置いていく。 家にある薬は配置期限が2年先なのに持ってきたのは1年先の薬。 それがエスカレートして、ついには期限半年の薬を持ってきた。 これは営業個人の問題であり、会社は関係無いのかもしれないが、富山 の薬売りも利益を追従する普通の会社に成り下がったのかと残念に思った。 一度そのような問題が発生すると、坂道を転がるように落ち、何かに ぶつかるまでは止まらない。 やがて、力を持ったある役人の家でもそれをやってしまった。 激怒した役人に営業と社長が謝りに行くも時既に遅し。この人は曲がった事 が大嫌いだからな。 そこから不買運動、契約打ち切りの連鎖が始まった。 うちにも富山の薬は入って来なくなった。 この役人の影響はとても大きいので、業績にも多少は響いたんじゃないかと 思い調べてみると、2011年から2013年が赤字になっている。偶然かもしれな いけど。 さて困った。風邪をひいた時に飲む薬が無いぞ。 今まで常に手元にあった物が無くなって、自分で選択しなくてはならなくな った。どれを買えば良いのだろう。 戻る