俺とナン
初めてちゃんとしたインド料理店に行ったのは18の時だったかもしれない。 子供の頃住んでいた所は田舎だったので、インド料理店など無かった。 それどころか、カレー屋すら無かったように思う。 カレーを食べる所といえば蕎麦屋、定食屋と決まっていたのだ。 そのインド料理店の前の道は何度か通っていたのだが、雰囲気が怪しいので自分とは 縁の無い飲食店だと思っていた。 切欠は午前中で授業が終わったある日のことだった。 知人が「何かうまいもの食いたいズラ〜」とか言うので、俺がその怪しい店を提案してみた所、 行こう行こうとなった。 エレベーターでその飲食店のあるフロアまで昇る。 扉が開くと・・・ きんきらきんのインドチックな世界が飛び込んできた。 「わわわ!!」 「わわわ!!」 俺達は慌ててその場を去ろうとした、 のだが。 額にビンディを付けた女の人が目の前に現れて、「いらっしゃませー」とか言ってきたので、 指図されるまま椅子に座った。 わー、インド人がいっぱいいる。 ランチは1000円〜1600円と書いてある。この頃は1000円と言えば贅沢なランチ だったかな。 周りの煌びやかな調度品とお香の臭いも相まって一層贅沢な感じがした。 カレーの知識も何も無かったので、インド人にすすめられた通りのメニューを頼んだ。 ナンに圧倒される。 このデカいパンは何だ。ナンだ。 カレーと言えばカレーライス、すなわち御飯で食べるのが当たり前じゃないのか? それにこのカレーは初めて食べる味だよ。 何て刺激的なカレーだ。定食屋のカレーとは全く異なるぞ。うめぇ! 世間知らずの小僧が物珍しそうに食べていたせいか、厨房から一番偉そうなコックが出てきて、 食べ方などを丁寧に教えてくれた。 それ以来この店に通うことになった。数十回は行っただろうか。 チキンカシミールとアチャールがおいしい店だったな。 5年ぐらいでオーナーが変わり、世間でインド料理店が増えてきてランチバイキングなどを やりだした所までは記憶にあるが、その後は知らない。 自分の中でのインド料理店の味の基準は今でもこの店にある。 この店よりうまいかまずいか、それが判断の仕方だ。 戻る