俺と三ツ木君
小学校三年の時だったかな。 学級委員をやりたいなんて稀有な人はまずいないだろう。 やりたかったとしてもそれを表には出さずに、誰かから推薦さ れるのを待つか、それとなく立候補者になって投票で勝つって のが通常ルートである。 ところが三ツ木君は自分から「はい」と手を挙げたのだ。 他にやりたいって人もいなく、委員長は三ツ木君に決まった。 学級委員ってだけで親受けはとても良い。 何かにつけ「あの子は学級委員だから」って言われるのだ。 世間は肩書きに弱いのだな。 しかし三ツ木君は委員長の器を持っていなかったようだ。 最初こそ努力でテストの点も良かったように思うが、基本性能 の悪さからだんだん落ちて行く事になるのだ。 おれは秋だったかな。 三ツ木君が「俺、賽銭箱からお金を取ってるんだ。」と言って きた。 なぜ俺に告白するんだ。そんな重大なことを。 それ程親しい仲ではないのに、いきなり何を言うんだこいつは。 「お札もたまにあって、5千円や1万円札もあるんだ。」 これは盛ってるだろうなと思った。 子供特有の盛りだ。小学校の時はそんな奴多かったよね。 だんだん収集がつかなくなるに違いないが、俺は大人(子供だが) なので突っ込むようなことはしなかった。それは今も同じだ。 そもそもこんな田舎の賽銭箱にお札を投げる人なんていてたま るか。 「一緒に行かないか?」 え、誘われたよ。 委員長に賽銭泥誘われたよ。 日々ゲーセンに入り浸りの放課後を送っていた俺は、いつもと違 うことを体験してみたくて「行く」と返事をした。 ランドセルを家に置くと、すぐにそのまま飛び出た。 待ち合わせの場所に三ツ木君はいた。 学校以外の場所でクラスメイトに会うのは変な感じである。 三ツ木君は裕福な家庭では無かった。それは覚えている。 山の上に神社はあった。 小さな神社。こんな所にお参りする人なんかそんなにいないだろうな。 いてもせいぜい正月だろう。 三ツ木君は賽銭箱を後ろから開け始めた。 本当に開けるのか。 「あまり入ってないなぁ」と三ツ木君の声が聞こえる。 俺はちょっと離れた所から様子を見ていて、彼は賽銭箱の裏側にしゃがん でいるので、こちらの様子は見えない。 カチンコでゲームをタダで遊ぶことに関しては全く抵抗が無かったが、 これはやってはいけないことではないのか? そんな気がする。 俺は何も言わず三ツ木君を置いてすたすたと帰った。 次の日「なんで急にいなくなるんだよー」って言われた。 戻る