俺と混ぜ女
有名店に一人でカレーを食べに行った。 昼時なので相席である。 4人掛けのテーブルに横並びで男と女の二人連れが座っていて、その対面に 座ることになった。 男はどっかの党の党員バッジっぽいのを付けていた。たぶん30代後半。 女は垢抜けない感じで地方の出っぽい。30代半ばと見た。 別に人の話を盗み聞きするつもりも無いのだが、カレーの到着を待っている 状態で何をする訳でもなく、自然と会話が耳に入ってくる。 何と、男は出身地が俺と同じではないか。 ○○駅のラーメンがどうのこうのと言っている。 喉まで声が出掛かったが、ここで話し掛けるのも何だかなと思いヤメた。 再び聞き耳を立てた。(立ててない) 女は長野出身。 2人は恋人同士って訳でも無いようだ。話し方が堅い。仕事関係かね? この地域に来るのは初めてのようなので、視察か何かかもしれないな。 俺と2人連れ、つまり3人のカレーは同時に届いた。 この店のカレーはセパレートタイプである。 ライスの量は結構多く、カレーを全部かけると溢れるのは間違い無い。 俺はカレーライスは混ぜない派なので、ライスを片側に寄せてからその空いた スペースにカレーを注ぐ食べ方である。稀に真ん中に穴を空ける場合もある。 ちなみにスープカレーの場合は最後までセパレートだ。 2人連れ男の方も混ぜない派みたいだ。ライスにカレーをひとかけして、その カレー区域を丸ごと掬い取る食べ方っぽい。 長野女は・・・ カレーを全部かけてぐちゃぐちゃに混ぜ始めた。 見る見る内に茶色くなっていく御飯。 男の顔はずっと正面を向いていたけど、一瞬ピクってなったのを俺は見逃さなかった。 長野女が「ごめんなさい、汚い食べ方で。」と言った。 たぶん今までに食べ方について言われたことがあるのだろう。 それは完全均一になるまで混ぜ込んで別の料理になっていた。 混ぜる時にガシガシ音を立ててないし、綺麗にまとまっていたのでそれほど不快とは 思わなかったが。 男は言った。 「僕は皿が少しでも汚れるのが嫌なんです。」 長野女の行為を否定してはいないが、きっぱり敢然と自分の食べ方を述べた。 俺は思った。この2人が付き合うことは無いだろうなと。 戻る