俺とカタヌキ
カタヌキを知らない人もいるだろうか。 祭りや縁日などで見るアレである。 薄い木の板をテーブル替わりにして、その上で砂糖菓子を綺麗にくり抜くと、 難易度に応じて現金が貰えるアレだ。 原価率5〜10%とは言え、相手はテキヤだ。 そう簡単に儲けられるはずが無い。 カタヌキデビューは小学生の時だった。 成績は覚えていないが、おそらく全敗だったと思う。 報酬額は屋台によってまちまちである。 あまりにも金額が高い屋台はやめた方が良い。抜いても絶対にくれないケースが 多そうだし。 安過ぎるところもパス。1枚100円で買うのに報酬100円〜の屋台もあった。 2番目ぐらいに安い所が良いだろう。 全部はくれなくても、プラスになるぐらいに報酬を受け取れれば良いのだ。 転機は中1の時にきた。 立て続けに5枚抜いたら、店のおじさんにプロと認定され、専用席が作られてしまった。 そこだけ金属のテーブルに椅子があり、後にパラソルまで付けられた。 テーブルにはマジックで「○○○○○○専用席」と書かれ、他の人間は座ることが 許されなかった。 ん、これはなかなか気分が良いではないか。 仲間がくるとそこに招待して、やり方を教えたり、端を折ってあげたりして楽しく過ごした。 店に認定されれば気兼ね無く抜ける。 1日に10〜20枚を成功させて、3日(祭りが3日間だから)で財布の中身が5000円 ぐらい増えていたと思う。中学生にとって5000円は大きかった。 店の缶(成功品を貯めておく缶)は俺の作品だらけになってしまった。 次の年はさすがに無いだろうなと思っていたら、同じ場所に同じおじさんがいて(当たり前だが)、 俺のことを覚えていてくれた。 結局中3までの3年間そこでカタヌキをした。3年とも収支は+5000円ぐらい。 今思うと、サクラとしておじちゃんに利用されていた感もあるな。 高校に入ってからは行くのをやめた。 カタヌキって小中学生の遊びのような気がして、もう恥ずかしくなってしまったのだ。 少なくともいい歳した大人がやってるのは見た事がない。 亀すくいなんかもそうだけど、それがインチキってわかる歳になったら行ってはいけないと 思う。 何だろう、仕事の邪魔をしちゃいけないって気持ちが働くのかもしれない。 亀なんてすくい方を知っていればいくらでもすくえるのだが、実際にすくっちゃったら 店も困るだろうし。 当時のカタヌキ報酬額リスト ( )内は他の店の相場 ◆舟 150円 (100〜500)  最も得意な型だった。成功率100%  これは針を使わず手だけで抜けた。  ボーナス的な存在だけど1枚抜いて純増は50円。 ◆魚 200円 (200〜1000)  300円だったかも。  これも簡単。頭の部分は手で折って、尻尾の部分を針で抜く。  失敗するとしたら尾鰭の所ぐらいだな。 ◆椎茸 200円 (300〜800)  手で折れる部分が多い。  首の所だけ針を使う。 ◆タンク 250円 (〜500)  空気入れ? 水鉄砲?  手折りで取手の部分が綺麗に取れることもある。ラッキーパターンだ。  難しいのは注ぎ口。 ◆コマ 400円 (300〜3000)  途中でデザインの変更があり、軸の部分が長くなり難易度がアップしたのを  覚えている。その長い軸が厄介。 ◆剣玉 忘れた  見た目より難しい。  付け根の部分でよく失敗した。 ◆傘 500円 (400〜3000)  閉じてるのと開いてるのがあった。  製菓メーカーによって取手部分の難易度が違う。大きく曲がってるのは難しい。 ◆カカシ 忘れた  難易度高い。  時間がかかるので、諦めて食っちゃうか。 ◆牛 800円 (500〜10000)  抜いた記憶があまり無い。 ◆つるはし (1000〜3000)  行き付けの所には無かった。成功したことはない。 ◆だんご (1000〜50000)  全箇所が難しい。棒に気を取られているとだんごがポロッと取れる。  金額が大きいので抜いてもくれないと思う。  どこの店にもある逸話が、  「この前6時間かけて抜いた子がいてさ、30000あげたよ」  なんて類の話だ。もちろん嘘だろうけど。 報酬額が1000円以上の型は、当たり前だけどなかなか認めてもらえない。 「ここが汚い、もう少し削って」 「ほんの少し欠けちゃったね、残念」 なんてセリフは常套句だ。 サクラ(?)でさえそうなんだから、まともにやってプラスに持っていくのは 大変だろう。 実はインチキ技もいくつか使った。 濡らす、道具を使う、折れたのをくっ付けるなんて可愛い技から、ここに書けない ような犯罪性のある大技まで色々やった。 祭りでカタヌキの屋台を見掛けると、昔のことを思い出して懐かしさに浸れる。 戻る