俺と豚小屋
ガキの頃住んでた場所は田舎だった。 家から数百mの所に豚小屋があったので、 風向きによっては芳しい香りを’タダ’で嗅ぐことができたし、 美しい鳴き声を’タダで’聴くこともできた。 豚小屋はガキにとって絶好の遊び場に思えるかもしれないが、 傍を通ることはあっても、中に立ち入ることはあまりなかった。 入っても面白くないからなのか、入ると豚小屋のおじさんに怒られるからなのか、 理由は覚えていない。 それでも月に1回ぐらいは遊びに行ってただろうか。 おじさんの留守を狙って。(あ、やっぱりおじさんに怒られるからか?) 近づくと豚たちは一斉に吠える。 餌くれ餌くれって言ってるのかもしれない。 もの凄い匂い(そんなに嫌いではない)とブヒブヒとした鳴き声は、近くで 体験するとかなりの迫力。 豚は綺麗好きって言うけど絶対嘘だと思った。 だってクソ垂れ流してるんだぜ。 その上にゴロンと寝っ転がってるし。 表には豚の餌が入った大きな容器があるのだが、 ふと思った。その容器の名前は何て言うんだろうと。 ミキサー車の胴体部分を立てたような感じの物で、ねずみ色が圧倒的に多い。 牛小屋なんかにも置いてある。 何て名前の物体なんだろう。おそらく一度も耳にしたことが無いんだろうな。 「ピエール」とか「パナソニック」とか、そんな感じの語感に違いない。 豚が一定の大きさに育つと、トラックに乗せられて運ばれていく。 何だかドナドナみたい。 トラックに乗せる時に耳としっぽを掴んで持ち上げるのだが、その時の鳴き声が かなり凄まじい。 さしずめ、豚小屋版マンドラゴラと言ったところか。 戻る